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日々の庭づくり/造園施工

中国蘇州における日本庭園作庭

2004年、日本庭園研究会 吉河 功会長の指導の下、中国の蘇州での日本庭園作庭事業に主要施工者として参加させて頂きました。庭園は、寒山寺の 五重塔を背景に、力強い滝石組、亀島、洞窟石組等で構成される枯池式の枯山水と水琴窟を備えた蹲踞や腰掛け待合のある露地の二つの要素から成りたっていま す。


滝石組と背景の寒山寺五重塔

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当時書いた作庭の感想文を紹介します。


このたび、蘇州作庭工事に参加させて頂き、会長、現場責任者の十川さんをはじめ、諸先輩方にたくさんのご指導を頂き大変感謝しています。並びに丁慶祝氏、孫来慶氏をはじめ園林局及び、現場に携わった中国の方々には大変お世話になり、この紙面を借りて御礼申し上げます。
 私のこれまでの経験の中には、今回ほど自分にとって刺激と勉強になり、さらに感動した仕事はなかった。
  私は、東京で造園業を営んでいるのですが、仕事の内容はどうしても需要の多い植木の剪定等、庭の管理が多くなり、造園工事でも植栽が主で、石組、敷石等、 石を使った工事はほとんど経験がなかった。そのような、何か単調で、幅のない自分にいきずまりを感じていた。日本庭園研究会に入会して、会長の講義を聞 き、技術部会の技術講習に参加するたび、自分の未熟さを知り、何とかしなければと思っていた。
 去年の暮れに、蘇州作庭への参加者を募集されてい ると聞いたときは、とにかく参加したいという一心だった。ただ、自分のような未熟者が参加して、みなさんの足を引っ張らないだろうか 、邪魔にならないだろうかと不安に思い、十川さんに相談したところ「やる気に勝るものはないから」と会長にもお願いしてくださった。会長に承諾して頂いた 時は、胸が躍り、期待でいっぱいだった。
 今回の蘇州作庭工事は、三期に分けられ、私はすべての工事に参加させて頂いたので、一期ごとに感想を述べたい。


2015-10-28_06:24_929.jpg 第一期工事


 蘇州に到着すると園林局のはからいで、空港まで出迎えてくださり、盛大な招待宴を催して下さる等、大変お気遣いを頂いた。宴席で、今回の作庭は日中友好の意味も含めた歴史的な事業であり、中国側の期待もたいへん大きい事を聞き、私たちも益々頑張らねばと気を引き締めた。
  私たちのやる気とは裏腹に、思うように工事は進まなかった。雨続きで粘土質の現場は歩くだけでやっと、といった状態でスコップなど使い物にならない。ク レーンやユンボといった重機は待てど暮らせど到着せず、ワイヤーやバール等必要最低限の道具さえなかなか手に入らないのだ。「日本が恵まれすぎていて、中 国ではこれくらいが当たり前なのだ」と何度も訪中しておられる会長に諭されて焦る気持ちを何とか抑えていた。焦ってもしょうがない、ここは日本ではないん だとだんだん腹も据わってきた。
 雨のおかげで有り難いこともあった。仕事ができない時間を利用して、蘇州市内の中国庭園を見学することができた のだ。研究会の例会でのスライドや写真集は見ていたが、実物は初めてだった。中国庭園は自然と融合した美しさがあり、細部においても繊細で効果的な意匠が 多くとても勉強になった。
 いよいよ本格的に工事に取りかかることができたのは到着から一週間も経ってからだった。それまで押さえていたものが爆発したような一日だった。          
  枯滝石組の主石は六トンもある巨石だが、重さ以上の迫力を持っている。この一石を据えることから始まった。ここからものすごいスピードで作業が進み、次の 日には枯滝が完成した。あまりのスピードに、私には考えたり、関心している余裕などなく、ただただ指示通り石を据えていったとゆう印象しかない。組み終 わって初めて、こんなに迫力ある枯滝を組んでいたんだなと実感できた。後に会長に伺ってわかったことだが、会長は石選びをとても重用視され、石選びの時 に、この石はどこで、どの面を使おうとゆうことを決められるそうだ。現場が始まる前に既に会長の頭の中にイメージが出来上がっていたからこそ迷いがなく、 あれだけのスピードが生まれるのだと感じた。現場で会長の指揮に従っていると一筆書きのように思うが、実際に作り始める前の準備は現場以上に時間がかか り、大変な作業であると思う。
 技術面で学ぶことも多かった。先に述べたようなスピードで作業を進めるためには、効率的で無駄のない技術か必要に なる。もたもたしていたのでは現場の志気だけでなく、指導者のテンションをも下げてしまうような気がする。石の吊り方、角度の変え方、かませ石を使った石 の固定方法などは、頭では理解できても実際現場で手早くやろうとするとなかなか上手くいかないものである。私など、気ばかり焦って頓珍漢なことをして何度 足を引っ張ったことだろうか。石を吊っては据える繰り返しの中で 、現場責任者の十川さんに何度も丁寧に教えて頂き、少しずつ体で感覚をつかむことができた。
 本工事では、枯滝石組、洞窟石組等枯山水庭園の主要な部分を体験することができ、私にとって大変大きな収穫となった。      


 第二期工事 

  一期工事とは打って変わって晴天に恵まれ、ほとんど現場を休まず作業に打ち込むことができた。前回道具がなくて苦労したので、日本から使い慣れた道具を持 ち込んだ事も功を奏し、この上なく順調に作業が進んだ。新たに三名が加わり総勢七名となり、会長と十川さんを中心に全員が気持ちを一つにしてまとまり、日 に日に勢いを増していった。現地スタッフの方々にもそのような情熱が伝わったのか、一生懸命協力して下さり、現場のムードは最高潮であった。
 前 半は護岸石組が主体であった。土留めの役目もあるので合端をよくしつつ、護岸のきれいな曲線を意識し,しかも造形的でなければならないので、技術と根気を 要する作業だった。。初めこそ手間取ることもあったが、尻上がりにテンポが良くなっていき、いくつかのグループに分かれて作業したときには、「会長、次は どの石ですか」「これでいいでしょうか」とあちこちから聞いたので,会長も体が一つでは足りないくらいに忙しそうであった。また、現地スタッフの方々に指 示を出すのに、いちいち通訳を頼むわけにもいかず、身振りと片言の中国語で砂や砕石の運搬を頼んだ事等、微笑ましく思い出される。護岸が組み終わる最後の 一石を据えるときには、「歴史的瞬間です」等と冗談を言ってはしゃいでいたが、皆が大きな充実感、達成感を感じていた。
 私の中で特に好きな造形 で、思い出深いのは亀島石組である。力強い亀頭石、亀足石を備えた躍動感あふれる姿で、島の上にやさしい雰囲気の三尊石組がある。この亀島を組むときに、 十川さんは材料検査に出かけておられたので、直接会長から指示を受けて、十川さん不在で施工することになった。誰か頼る人がいるのといないのとでは全く緊 張感が違い、人に頼っているときはほとんど頭を使って考えていないものだ。このときの緊張感がとても印象に残っているので、余計にこの亀島に愛着が湧くの だと思う。


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後半は、石橋に続く飛び石園路にも着手し、枯山水の石組みを完成させた勢いそのままに、ほぼ完成させることができた。
 予想以上のハイペー スで作業が進んだわけだが、これ位で良しとしようなどと妥協して据えた石は一石たりとも無い。一石一石微妙な向きや角度にこだわり、護岸の合端にはどこを 見ても隙間ひとつ無い。全てに私たちの情熱が込められている。そして参加者全員が少しでも役に立ちたい、勉強したいと積極的になれたことが現場の雰囲気を 盛り立てて、作品の完成度向上に繋がったのだと思う。
 以前会長にいただいた一文に巧詐不如拙誠とあった。その一文を実践できたと自負している。



2015-10-28_06:25_803.jpg 第三期工事 

露 地部分と植栽、垣根等全体の仕上げ工事を行った。初めの数日会長が緊急入院され一同不安に包まれる場面もあったが、デジタルカメラで現場写真を撮り、病院 で会長に見て頂きながら何とか作業を進めることができた。また、本工事から新たに参加して下さった高田宏臣さんは、露地、敷石工事において大変な実力者で あり、学ぶところが多かった。亀甲敷きや腰掛け待合いの配石と洗い出し等、中心になって施工され、私にも手取り足取り丁寧に教えて下さった。
 三 種類の敷石が施工されたが、私が最も多く携わったのは亀甲敷きである。高田さんの指導のもと全体のバランスを考えながら十五センチ程の厚みがある御影切石 をこやすけと石頭を使い手作業で割っていった。割った石の角をビシャンで叩くと柔らかく自然な線が出て、仕上がりも味わい深いものになった。機械を使った 硬い線ではこのような味わいは出せない。割り損なって石を無駄にすることも多々あり、石頭を握る手は豆だらけになったが、安易な方法に走らず苦労しただけ 自分の力になっているのではないだろうか。

 

2015-10-28_06:25_560.jpg造 園の仕事の中で洗練された良い味わいを出すということはなかなか難しいものだと思うのだが、この亀甲敷きを施工する中で、言葉では言い表せない奥深さが少 し理解できたように感じられた。また、この敷石工事の途中から蘇州のベテラン石工である顧さんが加わってくださった。一期工事で石橋の厚みを調整してくだ さった方である。私が石を割れなくて四苦八苦していると、いとも簡単にその石を割って下さった。道具の使い方から石割の色々なパターンに至るまで実演を交 えて何度もご指導いただいたのだが、何度真似をしても上手くいかず、顧さんの技術に感服するばかりだった。顧さんには石道具も譲って頂いたので、今後その 御厚意を無駄にしないよう鍛錬したいと思う。 現在日本では機械作業が主流となり、伝統的な手仕事の温かさが忘れ去られようとしている。同時に伝統的な技 術も忘れ去られていく恐れがある。顧さんと出会えたことで、改めて手仕事のすばらしさを感じた。私も庭仕事に携わる一職人としてそのような技術をもっと学 び、大切に伝えていくべきだと思った。
 本期工事途中からは、小菅さんをはじめ六人のベテランの先輩方が加勢してくださり、二つの敷石、竹垣、石燈籠の設置等を施工され、一歩一歩完成に近づいていった。 
工 事もいよいよ最終段階を迎え、茶色の地面が緑の地被類で覆われ、枯れ池に玉石が敷き詰められると庭園は益々コントラストを増し、石組みがそれまで以上に引 き立った。完成し、静かに佇む庭園を眺めていると、喜びと同時に一期工事からの活気に満ちた現場の様子が鮮明に蘇ってきた。 現場が終わり蘇州を離れるの がとても名残惜しく感じられた。


chinazennkei%20171-thumb-333x249-166.jpgおわりに

 今回の作庭事業は、私にとって仕事に対する意識を変えてくれる一大転機となった。今まで以上に庭仕事の楽しさを感じ、造形美の奥深さに直接関わったことによって、新たな目標を持つことができたのだ。
 今回得たたくさんの課題を糧として、今後、若い方たちの心を揺さぶるような作庭家になりたいと心に決めた。
 今後この庭園がたくさんの人に鑑賞され、何時までも輝きを失わないで保存されることを願っている。

掲載日:2010.03.21

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